街の中から、銭湯が消えていきます。つい先日も都内で一軒の公衆浴場が廃業しました。
内風呂の普及が進んだのが要因とのことです。身体に支障がなければ、今でも銭湯に行き、あの大きな湯船につかりながら、思いきり手足を伸ばしてみたいものです。
目をつむると元気に銭湯通いをしていた、遠い昔のことが偲ばれます。
昭和二十五年前後は、どの家も貧しく内風呂どころではありませんでした。夕日が落ちる頃になると朽ちてくすんだ木造の家々に明かりが灯りだします。
やがて小道を、夕食を済ませた少年3人がワイワイとにぎやかに銭湯にむかいました。
みな同じように、ランニングシャツに半ズボン姿で、手には洗面用具を抱えカラコロと下駄の音をたてて歩いていきます。
銭湯について裸になり、脱衣場から洗い場の戸を開けると、湯船の上一面に大きく描かれた富士山が、湯気に霞んで見えています。
この頃は、今では信じられないほど混んでいて、まるで芋を洗うがごとしでした。
そして少年たちが、勝手に湯を埋めようものなら「そんなにぬるくすんじゃない!」とお年寄りに言われるは必然で、やれタオルは湯船に入れるななどと叱られましたが、思い返すとこれらは社会勉強の一端であり、裸でつきあいの出来るコミュニケーションの場でもありました。
そして湯上りの最大のお楽しみ…。それは、左手を腰にあてながら飲む、コーヒー牛乳でした。3人とも「あー美味しい。」と言いながら小さな幸せを感じていました。
外へ出ると大きな月が、辺りを蒼くそめています。そして彼方からはチャラメラの音が聞こえてきました。
お風呂屋さん、大変にお世話になりました。
(世田谷区/H・A)
posted by 1039 at 11:21| 東京 ☁|
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●楽しい時間を…ありがとう
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