森の中央にある公園に続く小道の両側からは、色の魔術師ではと思うほど、鮮やかな色彩を盛りこんだ紫陽花の群れが、手招きをしている。
やがて木漏れ日が草むらに注がれる頃になると、小道を老若男女が三々五々、語らいながら、あるいは笑いながら、足早に通りすぎて行く。
ほどなくすると公園の中央広場から、辺りの静寂を破るラジオ体操のメロディーが森にこだました。
その軽快な旋律にあわせて皆の身体が一斉に、揺れて跳ねる。
そして音楽がやむと、体操をおえた人たちが元来た小道を、賑やかに家路へとむかう。
だがその後、静けさを取り戻した森からは、先程とは違う、優しく懐かしい音色が聞こえてきた。帰ろうかと思ったのだが、その音に魅せられて近づいてみると、木陰の一画には木製のテーブルと椅子が設けられており、そこには痩せ細った白髪の老人が、ハーモニカを愛おしそうに持ちながら、その傍らには大きな黒毛の犬がひざまずき、老人を見上げながら尾をふっている。
その名演奏ぶりからは、かなりのベテランとお見受けした。
──名残惜しいが、そろそろ帰るとするか。
今ではすっかり、身体の自由が利かなくなってしまったが、この公園に出向くことにより、元気な人たちを見ているだけでも、この老いぼれには、たくさんの活力をくれるビタミン剤なのだ。
朝の情景スケッチに登場してくれた、街の皆さん、お陰で良い心象風景を描くことが出来ました。
本当に、ありがとう。
「さて、ばあさん、そろそろ帰るとするかぁ、すまないなぁ何時も車椅子の面倒をかけて…あ・り・が・と・う」
(世田谷区/H・A)